国際相続ケース 海外移住をされている方のケース
目次
海外移住をされている方のケース
(1) 日本人である被相続人及び相続人が、日本国籍のまま海外に移住し、被相続人が海外で亡くなったケース
相続手続
このケースでは、相続人は、住んでいる海外で相続手続を行うことになり、その場合、現地国の法律にしたがって処理がなされるものと考えられます。ただ、日本に遺産がある場合には、日本にある遺産の名義を相続人に変更する必要があります。そして、法の適用に関する通則法36条では、相続に適用される法律は、被相続人の本国法であるとされているため、この場合、一族が海外に長年住んでいたとしても、被相続人の本国法である日本法の適用を前提とした処理をしなければなりません。したがって、現地国の法律に従って日本の遺産を処理しても、日本では名義変更ができない可能性があります。
相続税
相続発生時に被相続人も相続人も日本国外に居住していた場合は、原則、相続人が相続した被相続人の日本国内にある遺産のみが相続税の対象となります。
しかし、相続発生時に被相続人も相続人も日本国外に居住していたとしても、相続開始前直近10年の間に、日本人である相続人(日本人か否かは、相続発生時が基準となります)が日本に住所を有していたことがあるか、又は日本人である被相続人が日本に住所を有していたことがあるときには(被相続人が日本人か否かは、被相続人が日本に住所を有していた期間が基準となり、その間に日本国籍を持っていたことが一時でもあるならこれに該当します。)、相続人は、被相続人から相続する遺産が日本国内にあっても日本国外にあっても、相続税を支払う必要があります。
したがって、このケースでは、相続人も被相続人も一貫して日本人なので、相続開始時点から遡って10年の間に被相続人も相続人も日本に住所を有していたことがないのであれば、相続人は、制限納税義務者として、相続した日本の遺産についてのみ相続税を支払えばよいのですが、その間に、被相続人か相続人のいずれかが日本に住所を有していたことがあるのであれば、相続人が被相続人から相続する遺産が日本国内にあっても日本国外にあっても、日本の相続税の対象となります。なお、日本国外の遺産についてその所在地国でも相続税が発生し、二重課税となる場合、日本で外国税額控除が認められる可能性があります。
(2) 元々日本人である被相続人及び相続人が、外国籍を取得して海外に移住し、被相続人が海外で亡くなったケース
相続手続
このケースでは、上記(1)と同様に、相続人は、住んでいる海外で相続手続を行うことになり、その場合、現地国の法律にしたがって処理がなされるものと考えられます。
ただ、日本に遺産がある場合には、日本にある遺産の名義を相続人に変更する必要があります。そして、日本の遺産に関しては、法の適用に関する通則法36条では、相続に適用される法律は、被相続人の本国法であるとされております。ここまでは、上記(1)と同様です。しかし、本ケースでは、被相続人は外国籍を取得したため、ケース4(1)と異なり、本国法は日本法ではなく現地国法なので、原則的には、現地国法にしたがって名義変更をすべきと考えられます。
ただ、法の適用に関する通則法41条には反致という制度があり、これは、本国法が適用される場合において本国法によれば日本法によるべきときは、日本法を適用するというものです。したがって、反致が成立する場合には、結局日本法が適用されることになります。
この点、中国や英米系の国は、相続分割主義により、不動産は所在地法、動産は被相続人の住所地(英米系の国では、ドミサイル地。ドミサイルとは永住の意思が必要である点等、正確には日本の住所とは異なるものですが、住所に近いものです。)の法律が準拠法となります。このケースでは、被相続人も相続人も海外移住者ですから、被相続人の住所地、ドミサイル地は現地国にあると考えられます。したがって、日本にある不動産については、反致により日本法が適用されますが、日本にある動産については、現地国法が適用されます。
相続税
以上(1)で述べたとおり、相続発生時に被相続人も相続人も日本国外に居住していたとしても、相続開始前直近10年の間に日本人である相続人(相続開始時に日本国籍を持っていなければ該当しません。)又は日本人である被相続人(相続開始時に日本国籍を持っていなくても、日本に居住している間に被相続人が日本国籍をもっていれば該当します。)のいずれかが日本に住所を有していたときには、相続人は、被相続人から相続する遺産が日本国内にあっても日本国外にあっても、相続税を支払う必要があります。
したがって、このケースのように日本を出国するに際して被相続人について日本国籍から外国籍への変更がされた場合、被相続人は日本に居住している間は日本国籍を持っていたことになるので、被相続人が日本に居住していたのが相続開始前直近10年の間であれば、相続人は、被相続人から相続する遺産が日本国内にあっても日本国外にあっても、相続税を支払う必要があります。これに対して、被相続人が日本に居住していたのが相続開始前直近10年より前の場合は、既に相続開始時外国籍の相続人は、相続開始前直近10年の間に日本に住所を有していたことがなければ、相続した日本にある遺産についてのみが相続税の対象となります。