国内相続ケース 遺言書の種類と留意点
質問
私は、3人姉妹の二女です。父が亡くなった際、長女が法定相続分以上の遺産の取得を主張したために3年以上遺産分割調停をし、母が大幅に譲歩する形で調停が成立しました。この経験から母は、とりあえず自筆の遺言書を作成しました。きちんと公正証書にしようと思っていたのですが、母が急逝し、自筆の遺言書だけが残りました。家庭裁判所の検認手続を経て開封したのですが、内容は、遺産のほとんどを私と3女に相続させるというものでした。自筆遺言なので、土地の地番が抜けていたり、土地の表示が住居表示になっていたりします。このような遺言は、有効でしょうか。
回答
① 自筆証書遺言(民法第960条)
② 公正証書遺言(民法第969条)
③ 秘密証書遺言(民法第970条)
遺言書の種類 | 長所 | 短所 |
自筆証書遺言 |
・いつでもどこでも作成できる。 ・証人不要。 ・遺言の事実も内容も秘密にできる。 ・費用がかからない。 |
・紛失・偽造・変造 ・隠匿の危険がある。 ・方式が不備で無効になる危険がある。 ・内容が不特定で紛争を誘発する危険がある。 ・検認の手続が必要。 |
公正証書遺言 |
・内容が明確でひいては証拠力も高い。 ・遺言原本を公証人が保管するので偽造 ・変造・隠匿の危険がない。・検認手続が不要。 |
・公証人との打ち合わせ等手続が煩雑。 ・遺言の存在と内容を秘密にできない。 ・公証人の手数料等費用がかかる。 ・証人2人以上の立会が必要。 |
秘密証書遺言 |
・遺言の存在を明確にしつつ、かつ内容の秘密を保つことができる。 ・公証により偽造・変造の危険が少ない。 |
・公証人との打ち合わせ等手続が煩雑。 ・遺言書の内容に公証人が関与しないので ・自筆遺言証書と同様、特定性等に問題が生じて、紛争の可能性がある。 ・証人2人以上の立会が必要。 |
自筆証書遺言でも、上記①に記載された形式が整っていれば、有効な遺言書となります。自筆証書遺言については、遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なくこれを家庭裁判所に提出してその検認を受けなればならいとされています(第1004条第1項)。検認手続とは、相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。遺言の有効・無効を判断する手続ではなく、検認を受けなかったとしても、遺言書が無効になるわけではありません。検認では、相続人が呼出を受け、相続人又はその代理人の立会のもとで、書記官が開封します(封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いの上開封しなければならないことになっています。)。
さて、遺言書の内容ですが、公正証書遺言と異なり、自筆証書遺言では、物件の特定などが不十分な場合が散見されます。しかし、特定が不十分だからといって遺言そのものを無効としてしまうというのは遺言者の意思を無視することになり妥当ではありません。そこで、遺言書の解釈というのが問題となります。
相続人間で争いになった場合には、家庭裁判所では、遺言の有効性の判断が出来ませんので、地方裁判所で有効性を争うことになります。この点について最高裁判所は、「遺言書の解釈においては、遺言書文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探求すべきものであり、遺言書の特定の条項を解釈するにあたっても当該条項と遺言書全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して当該条項の趣旨を確定すべきである。」(最判昭和58年3月18日)としています。具体的には、①遺言に用いられた文言に「拘泥してはならないこと、②遺言書の全記載(他の条項)との関連を考慮すべきこと、③できるだけ遺言が有効になるように解釈するべきこと、④真意探求の資料として遺言外の事情(遺言書作成当時の事情や遺言者が置かれていた状況など)も解釈に用いることができるとされています。
判例の中には、「青桐の木より南方地所」という記載が他の事情から総合的に判断して特定されていると認められたものもあります。
本問のケースでも、総合的に判断すれば、特定されていると解釈する余地があるので、遺言が有効であると判断される可能性は残っていると思われます。