中国

1. 中国相続法の特色 

KBW_2990日本相続法と大きく異なる特徴としては、日本相続法は、被相続人の一切の財産及び債務を承継する単純承認を原則とし、相続財産の範囲で相続債務を弁済すればよいとする限定承認は、特にそれを選択した場合にのみ認められておりますが(相続人が複数存在する場合には、全員の同意を要します。)、中国相続法では、上記基本原則④により、限定承認しかありません。相続法の基本原則としては、①公民個人の私有財産についての相続保障、②相続権における男女平等、③権利と義務の一致、④限定相続、⑤養老育幼、相互理解と互譲・和睦団結(家庭強化)ということがあげられております。

相続法の基本原則としては、①公民個人の私有財産についての相続保障、②相続権における男女平等、③権利と義務の一致、④限定相続、⑤養老育幼、相互理解と互譲・和睦団結(家庭強化)ということがあげられております。

日本相続法と大きく異なる特徴としては、日本相続法は、被相続人の一切の財産及び債務を承継する単純承認を原則とし、相続財産の範囲で相続債務を弁済すればよいとする限定承認は、特にそれを選択した場合にのみ認められておりますが(相続人が複数存在する場合には、全員の同意を要します。)、中国相続法では、上記基本原則④により、限定承認しかありません。
 
また、日本相続法と中国相続法では、相続順位や相続分に大きな違いがあります。例えば、日本相続法では、相続人の相続分は、相続人が誰かにより、相続分が異なりますが(配偶者と子が相続人の場合は、それぞれ2分の1、配偶者と父母が相続人の場合は、それぞれ3分の2、3分の1、配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、それぞれ4分の3、4分の1)、中国相続法では、各相続人の相続分は原則均等です。さらに、日本相続法では、特別受益や寄与分という調整弁はありますが、各相続人の相続分は画一的に決められているのに対して、中国相続法では、法定相続人であっても、被相続人に対する扶養義務を十分履行しなかった場合には、相続分が全く認められなかったり、減額されることもあり、逆に扶養義務を多く履行している相続人や自活能力がない相続人には、均等の相続分よりも多くの相続分が認められることがあります。
その他、日本相続法では、法定相続人が1人でも存在する限り、法定相続人でない者が相続人として相続を受けることはありませんが(もちろん、遺言により遺産の贈与を受けることはできますし、特別縁故者といって、法定相続人が1人も存在しない場合に、被相続人と特別の関係のある相続人以外の者に相続財産が分与されることもあります。)、中国相続法では、法定相続人が存在しても、自活能力を有しない者や被相続人を比較的多く扶養した法定相続人以外の者に対して相続財産が分与されることもあります。
また、日本相続法では、遺留分といって、被相続人が遺言によっても奪うことができない一定限度の相続分が画一的に法定相続人に認められておりますが、中国相続法では、特にこのような画一的に法定相続人に保護された相続分はなく、自活能力のない相続人に対して必要な遺産を留保していない遺言は無効であるとして、法定相続分の保護を図っているだけです。
 

2. 遺産

(1) 遺産の範囲

遺産とは、被相続人の死亡時に遺留された個人の適法な財産であり、これには、次のものが含まれます(中国相続法3条)。
① 収入
② 建物、貯蓄及び生活用品
② 林木、家畜及び家禽
③ 文物及び図書資料
④ 法律により所有が許可される生産資料
⑤ 著作権及び特許権中の財産権利
⑥ その他の適法な財産
 

(2)家族共同財産及び夫婦共同財産

また、被相続人の個人財産のみが遺産として相続の対象となるので、被相続人名義であるか如何を問わず、家族共同財産や夫婦共同財産のうち被相続人以外の部分については、遺産に含まれませんので、これらを除外する必要があります。
 
家族共同財産とは、家族が共同生活中において共同の労働、購入、相続、受贈、その他の方法で取得した財産です。家族構成員の財産か共同財産か区別できない場合は、家族共同財産と推定されます。被相続人の家族共同財産に占める個人財産の割合は、生前の家族共同財産に対する財産的貢献度の大小、財産増加の多少等に基づき決められます。
中国では、特に夫婦財産契約を締結していない限り、婚姻中に取得した財産は、夫婦共同財産であり(ただし、一方が婚姻前から所有する財産、一方が身体に障害を受けたことにより取得した医療費、障害者生活補助費等、一方にのみ限定された相続、贈与財産、一方の専用生活用品、一方に帰属すべきその他の財産は、個人の特有財産とされ、夫婦共同財産ではありません(中国婚姻法18条)。)、各自の収入の有無、多少に関係なく平等の権利を有します。したがって、夫婦共同財産中から被相続人の持分である2分の1のみが遺産となります。
 

(3)その他遺産に含まれない財産

その他、譲渡ができない被相続人の人身権(人格権、身分権)、譲渡ができない被相続人の人身に関連した専属的な債権(労働契約に基づき発生した債権債務、賃貸借契約の賃借権、請負契約上の請負人の債務等)は遺産に含まれません。
また、土地は、国又は集団の所有に属し、個人は使用権を有するにすぎず、遺産に含まれません。相続人が継続して使用できるか否かは、被相続人の所属関連組織が決定します。家屋については、個人が所有することは可能なので、被相続人の所有する家屋は遺産となります。
さらに、被相続人の退職金、救済金、障害補助金等は、被相続人個人に対する経済的補助であるため、被相続人が既に受領しているものは遺産となりますが、未受領のものは、被相続人の死亡により消滅し遺産とはなりません。なお、救済金については、被相続人が生前扶養していた直系親族、配偶者に対して給付されるものがありますが、これは遺産にはなりません。
 

(4)保険金

人身保険(日本の生命保険に該当します。)については、受益者の指定がない場合には、遺産となりますが、受益者の指定がある場合は、指定された受益者に帰属し、遺産となりません。
これに対して、財産保険(日本の損害保険に該当します。)は、受益者指定の問題は存在せず、被相続人の遺産となります。ただ、それが夫婦共同財産に属する場合は、その半分のみが遺産となります。
 

3. 相続人

(1)法定相続と遺言相続

(ア)中国では、法定相続(中国相続法第2章)と遺言相続(中国相続法第3章)があります。法定相続とは、法定された法定相続人による相続です。しかし、被相続人は、遺言で法定相続人の1人又は数人を遺言相続人として指定することができ(中国相続法16条2項)、そのようにして指定された遺言相続人による相続を遺言相続といいます。したがって、第1順位法定相続人が存在しても、第2順位法定相続人を遺言相続人に指定できますし、複数の第1順位法定相続人から1人、第2順位法定相続人から1人を選んでその2人を遺言相続人とすることもできます。
 
(イ)法定相続
法定相続人は、第1順位法定相続人は、配偶者子、父母及び(場合により)子の配偶者で、第2順位法定相続人は、兄弟姉妹及び祖父母です(中国相続法10条、12条)。
嫡出子と非嫡出子や全血と半血の兄弟姉妹も同等の地位にあります。日本では、半血の兄弟姉妹は、全血の兄弟姉妹の半分の相続分ですが、中国では差はありません。嫡出子と非嫡出子の相続分については、日本では、従前、日本民法900条4号により非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の半分とされていましたが、平成25年9月4日に同規定が最高裁で違憲とされ、その後、両者の相続分は同等となりました。
 
(ウ)遺言相続
前述のとおり、遺言で、法定相続人から遺言相続人を指定でき、全遺産を1人の遺言相続人に相続させることも可能です。また、遺産の一部を遺言相続人に相続させた場合に、残余の部分については、遺言者が明白な反対意思を示していない限り、法定相続として取り扱います。例えば、遺言相続人が第1順位法定相続人であり、他にも第1順位法定相続人がある場合、当該遺言相続人を含めた第1順位法定相続人全員で残余の遺産について法定相続に従って相続します。遺言相続人が第2順位法定相続人の場合、残余の遺産は第1順位法定相続人のみで相続します。
日本では、遺言者は、遺言によっても法定相続人の遺留分を奪うことはできませんが、中国では、遺言者の意思により、自由に遺産を分け与えることができます。但し、労働能力を欠き、かつ、生活能力のない相続人に対しては必要な相続分を保留しなければならないと規定されており(中国相続法19条)、一定の制約は存在します。
 

(2)代襲相続

中国では、被相続人の子が被相続人よりも先に死亡した場合には、被相続人の子の直系卑属が代襲相続します。兄弟姉妹の場合には、代襲相続は発生しません。代襲相続原因は、子の先死のみであり、子が相続放棄、相続欠格により相続権を喪失した場合は、代襲相続は発生しません。代襲相続されるのは、子の相続分の範囲であり、子の相続分が、代襲相続人の間で均等に相続されることになります(中国相続法11条。したがって、代襲相続人が他の相続人と同等の地位に立って均等の割合で相続するわけではありません。)。
なお、遺言相続や遺贈には、代襲相続は認められておりませんので、遺言相続人や受贈者が被相続人より先に死亡した場合には、法定相続によって処理されることになります。日本では、子の先死の場合のほか、兄弟姉妹の先死の場合にも1代限り(子の代襲相続人は、子の直系卑属ですが、兄弟姉妹の代襲相続人は、兄弟姉妹の子だけです。)、代襲相続が発生します。また、相続放棄の場合は、中国と同様に代襲相続は発生しませんが、相続欠格や廃除により相続権を失った場合には、代襲相続が発生する点で、先死のみを代襲相続原因とする中国とは異なっております。
 

(3)相続人の欠格事由

中国相続法では、相続人に下記のような事由がある場合には、相続権を喪失します(中国相続法7条)。
① 故意に被相続人を殺害した場合
② 遺産を争奪するために他の相続人を殺害したとき。
殺害の目的が遺産を争奪することでなければ、これに該当しません。
③ 被相続人を遺棄したとき、又は被相続人を虐待し事案が重大であるとき。
遺棄とは、労働能力がなく生活源もないという経済力不足か、経済力はあるが自ら独立して生活できない身辺の介護を必要とする被相続人に対して、扶養義務及び扶養能力を有し、扶養履行可能な相続人がその扶養義務を履行せず、被相続人を放置することです。情状の軽重は問題となりません。
また、虐待とは、精神的及び身体的側面の両者を含みます。虐待は情状が重い場合のみ、欠格事由となります。
④ 遺言を偽造し、改ざんし、又は廃棄し、事案が重大であるとき。
受遺者による偽造等の場合には、受遺者の権利は喪失します。
 

4. 相続順位

中国での相続順位は、下記のとおり、第1順位法定相続人は、配偶者、子、父母及び(場合により)子の配偶者で、第2順位法定相続人は、兄弟姉妹、祖父母です。第1順位法定相続人が1人も存在しない場合に、第2順位法定相続人が相続できます(中国相続法10条、12条)。
 
① 第1順位 配偶者、子、父母及び(場合により)子の配偶者
② 第2順位 兄弟姉妹、祖父母
 
日本では、配偶者は、常に法定相続人となり、子が存在すれば、配偶者と子のみが、子が存在しない場合には、配偶者と直系尊属のみが、直系尊属が存在しない場合には配偶者と兄弟姉妹が相続人になりますが、中国では、配偶者、子、父母は同順位の相続人なので、これらのいずれかの者が生存する限り、兄弟姉妹が相続人となることはありません。
 
第1順位の相続人については、上記の他、「子の配偶者」も第1順位の相続人になることがあります。すなわち、子の配偶者が、被相続人に対して主たる扶養義務を尽くした場合には、第1順位の相続人になります(中国相続法12条)。日本では、被相続人の子の配偶者が相続人になることは絶対ありません。
 
「配偶者」には、同居期間中の事実婚の夫婦も含まれます。日本では、事実婚の夫婦は、相互に相続人になれません。また、中国では、「子」には、実子、養子のほか、扶養関係のある継子も含まれます。継父母とは、父母の再婚相手等をいい、継子とは、継父母からみた子のことです。したがって、たとえば、被相続人の配偶者の連れ子も、被相続人との間で扶養関係があれば、血縁関係がなくても、法定相続人となるのです。
 
また、中国では、法定相続人以外の者も、被相続人の扶養に頼り、労働能力を欠き生活源を有しない者や、被相続人を比較的多く扶養した者に対しては、他に法定相続人がいても、遺産から適当な分与を受けることができます(中国相続法14条)。これに対して、日本では、法定相続人でない者は、法定相続人が1人でも存在する場合には、相続人になることはできず、法定相続人が1人も存在しない場合に限り、被相続人と生計を同じくしていたり、被相続人の療養看護に努めたりした場合に、特別縁故者として、遺産の全部又は一部の分与を受けることができるにすぎません。
 

5.相続分

同一順位の相続人の相続分は、原則均等ですが、自活能力のない者(高齢者、子供、身体障害者等)や被相続人の生前、被相続人に対して主要な扶養義務を果たした者には、均等より多くの相続分が認めたりすることもできますが、逆に、扶養能力や条件がありながら、被相続人に対して扶養義務を履行しなかった者には、全く相続分を認めないか、減額しなければなりません(中国相続法13条)。したがって、たとえば、配偶者であったとしても、婚姻期間が短期間の場合には、被相続人の父母や子よりも少ない相続分しか認められないこともあります。逆に、婚姻期間が短くても、配偶者に自活能力がない場合には、多く認められることもあります。
 
日本では、①配偶者と子が相続人の場合は、配偶者及び子がそれぞれ2分の1、②配偶者と直系尊属が相続人の場合は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1、③配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1ということになっています。中国のように、相続人の自活能力の有無により、相続分が変動することはありません。しかし、日本でも、被相続人に対する療養看護をした相続人に対して多く相続させる寄与分という制度はあります(ただ、相続分が変動するものではありません。)。
 

6.遺産の範囲

夫婦の一方(例えば夫)が被相続人の場合、中国の法定夫婦財産制の下では、夫名義の財産でも、夫婦が婚姻後に築いた財産の2分の1は妻の財産であり、遺産となるのは、妻の財産を除いた2分の1となります。夫婦が婚姻前に双方の収入で購入した生活用品、共同貯蓄等については、それぞれの出資状況に応じた部分がそれぞれの財産として遺産となります。また、夫婦が婚姻前から有していた個人財産も、それぞれの財産として遺産となります。
 
これに対して、日本では、被相続人である夫名義の財産は、妻の単独所有である財産について夫名義になっている場合は遺産から除外されると考えられますが、それ以外は一応すべて遺産となります。日本では、離婚の際の財産分与は、名義にかかわらず、夫婦それぞれが、夫婦双方の全体財産の半分についての権利を有するものとして金額を算定しますが、相続の場合は、原則として自動的に半分が一方の財産であるというような考え方はしません。
 
 

7.遺産分割

被相続人が遺言中で遺産分割方法を指定した場合は、それに従って遺産分割する必要があります。遺言で遺産分割方法が指定されていない場合、遺産分割は、生産及び生活の必要に適わなければならず、遺産の効用を損なってはなりません。また、分割に適しない遺産については、換価、適切な補償又は共有等の方法を採用して処理することができます(中国相続法29条)。
 

8.相続の承認、放棄

中国では、相続が開始した場合、遺産の処理前であれば相続放棄をすることができます。原則として書面をもって他の相続人に明示して行う必要があります。相続放棄の表示をしないと、相続を承認したものとみなされます(中国相続法25条)。相続の放棄は、相続開始前にはすることができません。
 
相続が承認されると、相続人は、財産の他、被相続人が法により納付すべき税額や債務を弁済しなければなりません。但し、弁済は、遺産の範囲で行えばよく、遺産で弁済できない債務等を弁済する義務を負いません(中国相続法33条)。しかし、相続人が、被相続人に対する扶養義務を果たせるのに果たさなかったために被相続人が負担した債務については、遺産が完済に足りない場合も、相続人は弁済する義務を負います(これは、相続を放棄した場合も同様です。)。
 
そして、相続の方法としては、①被相続人の税金や債務を弁済して余りがある場合に、それを各相続人間で遺産分割する方法と、②相続開始後、まず共同相続人の相続分に応じて遺産分割し、その後、各相続人が債務を弁済する方法があります。
 
②の場合は、各相続人は、債権者に対して全額についての連帯責任を負います。相続人間で定めた負担額を超える金額を弁済した相続人は他の相続人に対して、各自が負担すべき金額を請求できます。法定相続人の他、遺言相続人や受遺者が存在する場合は、まず、法定相続人が取得した遺産により弁済し、不足の場合、遺言相続人と受遺者が取得した遺産に按分して弁済する義務を負います。また、同一順位の者が複数存在する場合、取得した遺産に按分して弁済する義務を負います。
 
相続を放棄すると、財産はもちろん被相続人の個人的債務は一切相続しません。しかし、被相続人が生前に家庭生活のために負った共同債務は免れません。
 
相続の放棄は、遺産処理前で、遺産の分割がされていない場合には、他の共同相続人の同意を得ることにより、撤回ができますが、遺産処理後の撤回はできません。
 
このように、中国では、相続開始後遺産処理前であれば、相続放棄ができますが、日本では、相続放棄は、原則として相続人が相続の開始を知ったときから3ヶ月の間しかできません。3ヶ月を超えると、単純承認したとみなされてしまいます(日本民法915条)。
 

9.遺言

(1)遺言能力

中国では、完全行為能力者(18歳以上の成年者)しか遺言できません(中国相続法22条1項)。但し、16歳以上で自分の勤労所得を主要な生活源泉としている者も、完全行為能力者とみなされるので、遺言ができます。
日本では、15歳以上であれば、遺言できます(日本民法961条)。
 

(2)遺言の方式

中国の遺言の種類は、公証遺言、自筆遺言、代筆遺言、録音遺言及び危急時遺言(口頭遺言)があります。
 
(ア)公証遺言(中国相続法17条1項)
公証遺言とは、遺言者が公証機関を通して行うもので、遺言者は、公証員2人の面前で遺言内容、年月日を自署して署名捺印しなければなりません。日本の公正証書遺言は、証人2人が必要ですが、中国の公証遺言には、証人は不要です。
遺言者による申請があった場合、公証処は、遺言者が本人か否か、行為能力者か否か、その真意に基づくものか否か、法律等に反しないか否か、対象が遺言者の所有物か否か等の審査を行い、審査に通った場合には、遺言公証書を発行します。公証が拒否された場合、申請者は、司法行政機関に対して不服申立ができます。
公証遺言は、他の方式の遺言よる取消し、変更はできず、公証遺言の取消し、変更は必ず、公証遺言によらなければなりません(中国相続法20条)。
 
(イ)自筆遺言(中国相続法17条2項)
自筆遺言は、遺言者が自書し、署名し、年月日を明記することにより作成します。
 
(ウ)代筆遺言(中国相続法17条3項)
代筆遺言は、2人以上の証人が立ち会い、そのうち1人が代筆し、年月日を明記し、かつ、代筆者、その他の証人及び遺言者が署名しなければなりません。
 
(エ)録音遺言(中国相続法17条4項)
遺言者が、録音形式で口述遺言を行う方法であり、2人以上の証人の立会が必要です。
 
(オ)口頭遺言(中国相続法17条5項)
口頭遺言は、危急時において、口頭でできる遺言です。口頭遺言は、2人以上の 証人の立会が必要です。危急の状況が過ぎた後に、遺言者が他の方式により遺言をすることができる場合には、その口頭遺言は無効となりますので、口頭遺言の内容の遺言の効力を保持しようとする場合には、他の方式による同内容の遺言をする必要があります。
 

(3)証人

公証遺言と自筆遺言以外の方法では、すべて2人以上の証人の立会が必要です。証人は、完全行為能力者である必要があり、かつ、相続人、受遺者又はそれらの利害関係者(配偶者、子、父母、兄弟姉妹、祖父母、債権者、債務者、共同経営組合員等)以外の者である必要があります。
 

(4)遺言の無効

遺言は、労働能力を欠き、かつ、生活源泉のない相続人に対し必要な相続分を保留しなければなりません(中国相続法19条)。保留すべき相続分とは、当該相続人の生活保障に必要な遺産であり、遺産総額が少ない場合は遺産すべてを保留する必要すべきこともありえますが、遺産総額が多額の場合には、法定相続分よりも少額で足りる場合もありえます。
いずれにせよ、中国では、日本のような画一的に相続人の相続分を保障する遺留分の制度はありませんが、自活能力がない相続人については一定限度保護されております。また、日本では、遺留分を侵害する遺言も無効とはならず、遺留分を侵害された相続人による遺留分減殺請求権の行使により、侵害が回復されることになりますが、中国では、自活能力がない相続人に対する遺産留保がない遺言は無効となります。
その他、完全行為能力者でない者が行った遺言、遺言者の真意に反する遺言(脅迫、詐欺によりなされた遺言や、偽造、変造された遺言)、遺言者の危急状況が過ぎた後にその他の方式で遺言が可能な場合の口頭遺言、被相続人に属さない財産を処分する内容の遺言等は、無効となります。
 

(5)遺言の取消し、変更

遺言者は、自らなした遺言を取り消し、又は変更することができます(中国相続法20条1項)。また、遺言者の生前行為と遺言の意思表示が相反し、遺言による処分財産が相続開始前に消滅、部分消滅又は所有権が移転、部分移転している場合は、遺言は取り消されたか又は部分的に取り消されたものとみなされます。
遺言の取消し、変更は、単なる意思表示では足りず、遺言方式による表明が必要です。元の遺言と同じ方式による必要はありません。したがって、自筆遺言、代筆遺言、録音遺言、口頭遺言の間で遺言内容に抵触がある場合、それらの遺言中の最も新しい遺言の内容が優先します(中国相続法20条2項)。しかし、公証遺言だけは、他の方式の遺言により取消し、変更はできないため、自筆遺言、代筆遺言、録音遺言、口頭遺言と公証遺言の内容が抵触する場合、公証遺言の内容が優先します。また、既に行った公証遺言の内容の取消し、変更を行うためには、公証遺言で行う必要があります(中国相続法20条3項)。
この点、日本では、公正証書遺言、自筆証書遺言及び秘密証書遺言の3種類が認められておりますが、これらの間には効力に差がなく、これらの遺言の内容が抵触する場合は、最後の遺言の内容が優先します(日本民法1022条、1023条)。
 

(6)遺贈

(ア)遺贈及びその種類
遺贈とは、遺言方式により、自己の個人財産を法定相続人以外の者に贈与するもので、遺贈者の死亡により法的効力が生ずる遺贈者の単独行為です。遺贈には、①全財産を対象とする包括遺贈、②特定の財産を対象とする特定遺贈、③遺贈者が遺言において条件、義務を付し、受遺者が、条件を満たし、義務を履行して初めて遺贈を受けることができる負担付遺贈があります。
遺言相続は、法定相続人の中から遺言相続人を指定する必要がありますが、遺贈の受遺者は、逆に法定相続人以外の者である必要があり、国や集団に対する遺贈も可能です。
なお、中国には、遺贈とは異なる遺贈扶養契約というものがあります。これは、被相続人が、自らの生前の扶養と死後の弔いを行うことの対価として、遺贈を受ける権利を他者に与える契約で、扶養者は、合意にしたがい、被相続人の生前の扶養及び死後の葬儀に係る義務を負い、被相続人から遺贈を受ける権利を有します(中国相続法31条)。なお、遺贈扶養契約と遺言との間に齟齬がある場合は、遺贈扶養契約が優先し、それに抵触する遺言の全部又は一部は無効となります。
 
(イ)遺贈の放棄
遺贈は書面又は口頭で放棄することができ、受遺者は、遺贈を受けることを知った後2か月内に、遺贈を受け、又は放棄する旨の表示をしなければなりません。期日が到来しても表示していない場合には、遺贈を受けることを放棄したものとみなされます(中国相続法25条2項)。相続の放棄の場合は、遺産処理前に放棄の意思表示をしないと、承認とみなされるのと異なります(中国相続法25条1項)。受遺者が遺贈を放棄した場合、遺贈の対象財産は、法定相続手続により法定相続人が相続します。
日本では、原則として、受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができるとされ(日本民法986条1項)、遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。)その他の利害関係人が、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をした場合、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなされるのとは対照的です。
 

(7)遺言の執行

遺言は、遺言者の死後に発効するので、遺言の内容を実現するためには、遺言の内容を執行する遺言執行者が必要です。遺言者は、遺言で、法定相続人又はそれ以外の者の中から遺言執行者を指定することができます(中国相続法16条)。遺言執行者としては、1人又は複数人を指定できますが、遺言中に遺言執行者の指定がなく、又は遺言で指定された者が何らかの理由により遺言執行ができないときは、全法定相続人が遺言執行者となります。この際、全法定相続人の協議により、1人又は複数の法定相続人を遺言執行者として選任できます。
遺言執行者は、満18歳以上(成年者)、かつ、完全行為能力者である必要があります。
 

10.渉外相続(準拠法)

法定相続の場合、被相続人の経常的住所地法を適用し、不動産については不動産所在地法を適します(渉外民事関係法律適用法31条)。また、中国法では、反致の規定はないので、2重反致は問題となりません。したがって、例えば、日本に住む中国人が被相続人の場合、被相続人が有する日本の動産及び不動産の準拠法はいずれも日本法となります。

日本の判例上、被相続人が有していた日本にある不動産の相続については、日本法が適用されております(東京高裁平成2年6月28日、最判平成6年3月8日、東京地判平成22年11月29日)。また、日本で発生した損害賠償請求権、貸金債権等債権について、日本法を準拠法とした判例もありますが、日本で交通事故にあった中国人の遺族による損害賠償請求権について、中国法を準拠法とした判例(浦和地判平成9年7月2日、名古屋高判平成25年12月19日)もあります。ただ、浦和地判平成9年7月2日は、反致を認めなかった点について批判を受けており、名古屋高判平成25年12月19日は、日本法でも中国法でも結論に差がなかったところから、特段準拠法が争いにならなかったものと推測されます。