中国

中国相続法の概要

1. 中国相続法の改正

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2020年5月28日に新たに民法典が公布され、1985年10月1日に施行された従前の相続法は、一部改正の上民法典中に統合されることになり、相続法自体は廃止されました。改正民法典は2021年1月1日から施行されます。ここでの記載は、改正民法典に基づいております。

 

2.中国相続法の特色

相続法の基本原則としては、①公民個人の私有財産についての相続保障、②相続権における男女平等、③権利と義務の一致、④限定相続、⑤養老育幼、相互理解と互譲・和睦団結(家庭強化)ということがあげられております。日本の相続法と比較すると、後述べるとおり、この内④と⑤が大きな特徴だと考えられます。

中国において、相続には、遺言がない場合における法定された方法により遺産を分配する法定相続と、遺言がある場合において遺言の内容により遺産を分割する方法があることは日本と同様です。ただ、遺言による場合でも、相続人に対するものを遺言相続といい、相続人以外に対するものを遺贈といいます。この点、日本では、遺贈という法律用語には、相続人以外に対するものの他、相続人に対するものも含まれている点で異なっているといえます。

また、日本相続法と大きく異なる特徴としては、日本相続法は、被相続人の一切の財産及び債務を承継する単純承認を原則とし、相続財産の範囲で相続債務を弁済すればよいとする限定承認は、特にそれを選択した場合にのみ認められておりますが、中国相続法では、上記基本原則④により、限定承認しかありません。

また、日本相続法と中国相続法では、相続順位や相続分に大きな違いがあります。例えば、日本相続法では、相続人の相続分は、相続人が誰かにより、相続分が異なりますが(配偶者と子が相続人の場合は、それぞれ2分の1、配偶者と父母が相続人の場合は、それぞれ3分の2、3分の1、配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、それぞれ4分の3、4分の1)、中国相続法では、各相続人の相続分は原則均等です。さらに、日本相続法では、特別受益や寄与分という調整弁はありますが、各相続人の相続分は画一的に決められているのに対して、中国相続法では、法定相続人であっても、被相続人に対する扶養義務を十分履行しなかった場合には、相続分が全く認められなかったり、減額されることもあり、逆に扶養義務を多く履行している相続人や自活能力がない相続人には、均等の相続分よりも多くの相続分が認められることがあります。そして、自活能力がない相続人に対する配分は、被相続人の未払税金や未払債務の支払に優先すべきものとされています。これは、上記基本原則⑤にかかわるものだと言えます。

その他、日本相続法での法定相続では、法定相続人が1人でも存在する限り、法定相続人でない者が相続人として相続を受けることはありませんが(特別縁故者といって、法定相続人が1人も存在しない場合に、被相続人と特別の関係のある相続人以外の者に相続財産が分与されることもあります。)、中国相続法では、法定相続人が存在しても、自活能力を有しない者や被相続人を比較的多く扶養した法定相続人以外の者に対して相続財産が分与されることもあります。これも、上記基本原則⑤にかかわるものだと言えます。

ただ、日本でも相続法の改正により、令和元年7月1日から特別の寄与制度という、被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした相続人以外の被相続人の親族が相続人に対して寄与に応じた額の金額の支払を請求することができる制度が創設されました。しかし、これは、相続財産の維持、増加への貢献に対する対価であるという意味で、中国相続法とは趣旨が異なると言えます。

また、日本相続法では、遺留分といって、被相続人が遺言によっても奪うことができない一定限度の相続分が画一的に法定相続人に認められておりますが、中国相続法では、特にこのような画一的に法定相続人に保護された相続分はなく、自活能力のない相続人等に対して必要な遺産を留保しなければならないという限度で、被相続人の処分権に制限があるだけです。ただ、前記のとおり、自活能力のない相続人への分配は、被相続人による未払税金を含む未払債務の支払よりも優先する点では、自活能力の有無を考慮せず未払債務を控除した後の相続財産の承継しかなされない日本の相続法と比較すると自活能力のない相続人に対する保護は厚いものとなっております。

中国相続法の遺産

3.遺産

改正民法典以前の相続法3条では、遺産とは、被相続人の死亡時に遺留された個人の適法な財産であるとし、収入、建物、貯蓄及び生活用品等具体的な財産を列挙しておりました。しかし、社会の発展により、様々な財産権が発生してきたことから、改正民法典1122条1項により、遺産の範囲を個別的に列挙する形ではなく、「遺産は、自然人が死亡した時に遺した個人の適法な財産である。」というように、概括的に定める形に変更されました。そして、「法律の規定により、又はその性質に基づき相続してはならない遺産は、これを相続してはならない。」という相続できない遺産に関する規定が加えられました(改正民法典1122条2項)。

まず、遺産は財産又は財産的権利である必要があり、被相続人の人格権、身分権等の非財産的権利は遺産に含まれません。また、合法的な財産である必要があり、法律で所有が禁止されている財産は遺産に含まれません。さらに、被相続人の個人の所有に属するものである必要があり、土地請負経営権や宅地使用権等は、被相続人個人に属する権利ではないので、遺産に含まれません。

家族共同財産及び夫婦共同財産

また、被相続人の個人財産のみが遺産として相続の対象となるため、被相続人名義であるか如何を問わず、家族共同財産や夫婦共同財産のうち被相続人以外の者に帰属する部分については、遺産に含まれません。したがって、遺産分割の際にはこれらを除外する必要があります(改正民法典1153条)。

家族共同財産とは、家族が共同生活中において共同の労働、購入、相続、受贈、その他の方法で取得した財産です。家族構成員の財産か共同財産か区別できない場合は、家族共同財産と推定されます。被相続人の家族共同財産に占める個人財産の割合は、生前の家族共同財産に対する財産的貢献度の大小、財産増加の多少等に基づき決められます。

また、中国では、特に夫婦財産契約を締結していない限り、婚姻中に取得した財産は、夫婦共同財産であり、各自の収入の有無、多少に関係なく平等の権利を有します。したがって、夫婦共同財産中から被相続人の持分である2分の1のみが遺産となります。これに対して、一方が婚姻前から所有する財産、一方が身体に障害を受けたことにより取得した賠償、補償等、一方にのみ限定された遺贈、贈与された財産、一方の専用生活用品、一方に帰属すべきその他の財産は、個人の特有財産とされ、夫婦共同財産ではありません(改正民法典1063条)。

中国相続法の相続人

4.相続人

(1)法定相続と遺言相続

(ア)中国では、法定相続(改正民法典第6編第2章)と遺言相続(改正民法典第6編第3章)があります。法定相続とは、法定された法定相続人による相続です。しかし、被相続人は、遺言で法定相続人の1人又は数人を遺言相続人として指定することができ(改正民法典1133条2項)、そのようにして指定された遺言相続人による相続を遺言相続といいます。したがって、第1順位法定相続人が存在しても、第2順位法定相続人を遺言相続人に指定できますし、複数の第1順位法定相続人から1人、第2順位法定相続人から1人を選んでその2人を遺言相続人とすることもできます。

(イ)法定相続

法定相続人は、第1順位法定相続人は、配偶者、子、父母及び(場合により)子の配偶者で、第2順位法定相続人は、兄弟姉妹及び祖父母です(改正民法典1127条、1129条)。

嫡出子と非嫡出子や全血と半血の兄弟姉妹も同等の地位にあります(改正民法典1127条3項、5項)。日本では、半血の兄弟姉妹は、全血の兄弟姉妹の半分の相続分ですが、中国では差はありません。嫡出子と非嫡出子の相続分については、日本では、従前、日本民法900条4号により非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の半分とされていましたが、平成25年9月4日に同規定が最高裁で違憲とされ、その後、両者の相続分は同等となりました。

(ウ)遺言相続

前述のとおり、遺言で、法定相続人から遺言相続人を指定でき、全遺産を1人の遺言相続人に相続させることも可能です。また、遺産の一部を遺言相続人に相続させた場合に、残余の部分については、遺言者が明白な反対意思を示していない限り、法定相続として取り扱います。例えば、遺言相続人が第1順位法定相続人であり、他にも第1順位法定相続人がある場合、当該遺言相続人を含めた第1順位法定相続人全員で残余の遺産について法定相続に従って相続します。遺言相続人が第2順位法定相続人の場合、残余の遺産は第1順位法定相続人のみで相続します。

日本では、遺言者は、遺言によっても法定相続人の遺留分を奪うことはできませんが、中国では、遺言者の意思により、自由に遺産を分け与えることができます。但し、労働能力を欠き、かつ、生活上の源泉のない相続人に対しては必要な相続分を保留しなければならないと規定されており(改正民法典1141条)、一定の制約は存在します。労働能力を欠き、かつ、生活上の源泉のない相続人に対して留保すべき相続分は、被相続人の未払税金や未払債務の支払に優先すべきものとされております(改正民法典1159条)。

(2)代襲相続

中国では、被相続人の子が被相続人よりも先に死亡した場合には、被相続人の子の直系卑属が代襲相続します。改正前の相続法では、兄弟姉妹の場合には、代襲相続は発生しませんでしたが、改正により、兄弟姉妹の場合には、その子の代までの代襲相続が発生することになりました(改正民法典1128条2項)。

代襲相続原因は、子の先死のみであり、子が相続放棄、相続欠格により相続権を喪失した場合は、代襲相続は発生しません。代襲相続されるのは、子の相続分の範囲であり、子の相続分が、代襲相続人の間で均等に相続されることになります(改正民法典1128条3項。したがって、代襲相続人が他の相続人と同等の地位に立って均等の割合で相続するわけではありません。)。

なお、遺言相続や遺贈には、代襲相続は認められておりませんので、遺言相続人や受贈者が被相続人より先に死亡した場合には、法定相続によって処理されることになります(改正民法典1154条3号)。日本でも、中国と同様に、受贈者や「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)による推定受益相続人が被相続人より先に死亡した場合には代襲相続は発生せず、遺贈は無効となり(日本民法994条。最判平成23年2月22日では、特定財産承継遺言について、推定受益相続人が被相続人より先に死亡した場合、特段の事情がない限り無効だとしています。)、無効となった部分について、法定相続によって処理されることになります。

日本では、子の先死の場合のほか、兄弟姉妹の先死の場合にも1代限り(子の代襲相続人は、子の直系卑属ですが、兄弟姉妹の代襲相続人は、兄弟姉妹の子だけです。)、代襲相続が発生しますが、今回の改正民法典により、兄弟姉妹の先死の場合にも1代限り代襲相続が認められるという点で、日本と中国とで同じになりました。

また、日本では、相続放棄の場合は、中国と同様に代襲相続は発生しませんが、相続欠格や廃除により相続権を失った場合には、代襲相続が発生する点で、先死のみを代襲相続原因とする中国とは異なっております。

(3)相続人等の欠格事由

改正民法典では、相続人、相続人や受贈者に下記のような事由がある場合には、相続権を喪失します(改正民法典1125条)。遺言相続人や受贈者が欠格事由に該当する場合は法定相続により処理されます(改正民法典1154条4号)。

①故意に被相続人を殺害した場合

②遺産を争奪するために他の相続人を殺害したとき。殺害の目的が遺産を争奪することでなければ、これに該当しません。

③被相続人を遺棄したとき、又は被相続人を虐待し事案が重大であるとき。

遺棄とは、労働能力がなく生活源もないという経済力不足か、経済力はあるが自ら独立して生活できない身辺の介護を必要とする被相続人に対して、扶養義務及び扶養能力を有し、扶養履行可能な相続人がその扶養義務を履行せず、被相続人を放置することです。情状の軽重は問題となりません。

また、虐待とは、精神的及び身体的側面の両者を含みます。虐待は情状が重い場合のみ、欠格事由となります。

日本における廃除(日本民法892条、893条)に近いと言えますが、廃除が認められるためには、家庭裁判所の審判が必要であるのに対して、中国では当然に相続ができなくなる点が異なると言えます。

④遺言を偽造し、改ざんし、又は廃棄し、事案が重大であるとき。受遺者による偽造等の場合には、受遺者の権利は喪失します。

中国相続法の相続順位

5.相続順位

中国での相続順位は、下記のとおり、第1順位法定相続人は、配偶者、子、父母及び(場合により)子の配偶者で、第2順位法定相続人は、兄弟姉妹、祖父母です。第1順位法定相続人が1人も存在しない場合に、第2順位法定相続人が相続できます(改正民法典1127条、1129条)。

①第1順位 配偶者、子、父母及び(場合により)子の配偶者

②第2順位 兄弟姉妹、祖父母

日本では、配偶者は、常に法定相続人となり、子が存在すれば、配偶者と子のみが、子が存在しない場合には、配偶者と直系尊属のみが、直系尊属が存在しない場合には配偶者と兄弟姉妹が相続人になりますが、中国では、配偶者、子、父母は同順位の相続人なので、これらのいずれかの者が生存する限り、第2順位の兄弟姉妹や祖父母が相続人となることはありません。

第1順位の相続人については、上記の他、「子の配偶者」も第1順位の相続人になることがあります。すなわち、子の配偶者が、被相続人に対して主たる扶養義務を尽くした場合には、第1順位の相続人になります(改正民法典1129条)。

日本では、被相続人の子の配偶者が相続人になることはありません。ただ、令和元年7月1日から施行された改正民法1050条で特別の寄与制度が認められ、相続人以外の被相続人の親族は、被相続人に対して無償で療養監護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合、相続人に対して寄与に応じた額の金額の支払を請求することができます。したがって、被相続人の子の配偶者も、特別の寄与が認められれば、一定の支払を受けることができます。

「配偶者」には、同居期間中の事実婚の夫婦も含まれます。日本では、事実婚の夫婦は、相互に相続人になれません。また、中国では、「子」には、実子、養子のほか、扶養関係のある継子も含まれます。継父母とは、父母の再婚相手等をいい、継子とは、継父母からみた子のことです。したがって、たとえば、被相続人の配偶者の連れ子も、被相続人との間で扶養関係があれば、血縁関係がなくても、法定相続人となるのです。

また、中国では、法定相続人以外の者も、被相続人の扶養に頼り、労働能力を欠き生活源を有しない者や、被相続人を比較的多く扶養した者に対しては、他に法定相続人がいても、遺産から適当な分与を受けることができます(改正民法典1131条)。これに対して、従前日本では、法定相続人でない者は、法定相続人が1人でも存在する場合には、遺産の分配を受けることはできず、法定相続人が1人も存在しない場合に限り、被相続人と生計を同じくしていたり、被相続人の療養看護に努めたりした場合に、特別縁故者として、遺産の全部又は一部の分与を受けることができるにすぎませんでしたが、上記のとおり民法の改正により、相続人以外の被相続人の親族について被相続人に対する特別の寄与がある場合には、一定の支払が認められることになりました。

中国相続法の相続分

6.相続分

同一順位の相続人の相続分は、原則均等ですが(改正民法典1130条1項)、生活に特段の困難があり、かつ、労働能力を欠く相続人については、遺産を分配する際に、配慮をしなければならず(改正民法典1130条2項)、また、被相続人に対し主たる扶養義務を尽くし、又は被相続人と共同生活した相続人については、遺産を分配する際に、多く分配することができるとされています(改正民法典1130条3項)。逆に、扶養能力や条件がありながら、被相続人に対して扶養義務を履行しなかった者には、全く相続分を認めないか、減額しなければなりません(改正民法典1130条4項)。

日本では、①配偶者と子が相続人の場合は、配偶者及び子がそれぞれ2分の1、②配偶者と直系尊属が相続人の場合は、配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1、③配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1ということになっています。また、日本でも、被相続人に対する療養看護、労務の提供等を通じ被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をした相続人に対して多く相続させる寄与分という制度がありますが、中国のように広く変動を認めるものではありませんし、相続欠格や廃除の場合以外に相続分が全く認められなかったり減額されることはありません。

7.遺産の範囲

 遺産とは、自然人が死亡した時に遺した個人の適法な財産です(改正民法典1122条1項)。しかし、法律の規定により、又はその性質に基づき相続してはならない遺産は、これを相続してはならないとして遺産から除外されています(改正民法典1122条2項)。

なお、夫婦の一方(例えば夫)が被相続人の場合、中国の法定夫婦財産制の下では、夫名義の財産でも、夫婦が婚姻期間中に築いた財産の2分の1は妻の財産であり、遺産となるのは、妻の財産を除いた2分の1となります。夫婦が婚姻前に双方の収入で購入した生活用品、共同貯蓄等については、それぞれの出資状況に応じた部分がそれぞれの財産として遺産となります。また、夫婦が婚姻前から有していた個人財産も、それぞれの財産として遺産となります。

相続の承認、放棄

8.相続の承認、放棄

中国では、相続が開始した場合、遺産の処理前であれば書面をもって相続放棄をすることができます。相続放棄の表示をしないと、相続を承認したものとみなされます(改正民法典1124条1項)。相続の放棄は、相続開始前にはすることができません。

相続が承認されると、相続人は、財産の他、被相続人が法により納付すべき税額や債務を弁済しなければなりません。但し、弁済は、遺産の範囲で行えばよく、遺産で弁済できない債務等を弁済する義務を負いません(改正民法典1161条1項)。相続を放棄すると、財産はもちろん被相続人の未払の税金や債務は一切相続しません(改正民法典1161条2項)。

このように、中国では、相続開始後遺産処理前であれば、相続放棄ができますが、日本では、相続放棄は、原則として相続人が相続の開始を知ったときから3ヶ月の間しかできません。3ヶ月を超えると、単純承認したとみなされてしまいます(日本民法915条)。

遺言相続及び遺贈

9.遺言相続及び遺贈

(1)遺言能力

中国では、完全行為能力者(18歳以上の成年者)しか遺言できません(改正民法典1143条1項)。但し、16歳以上で自分の勤労所得を主要な生活源泉としている者も、完全行為能力者とみなされるので、遺言ができます。

日本では、15歳以上であれば、遺言できます(日本民法961条)。

(2)遺言の方式

 中国の遺言の種類は、公証遺言、自筆遺言、代筆遺言、印刷遺言、録音・録画遺言及び危急時遺言(口頭遺言)があります。

(ア)公証遺言(改正民法典1139項)

公証遺言とは、遺言者が公証機関を通して行うもので、遺言者は、公証員2人の面前で遺言内容、年月日を自署して署名捺印しなければなりません。日本の公正証書遺言は、証人2人が必要ですが、中国の公証遺言には、証人は不要です。

改正前の相続法では、公証遺言は、他の方式の遺言よる取消し、変更はできず、公証遺言の取消し、変更は必ず、公証遺言によらなければならないとされていましたが(相続法20条)、改正により、他の方式の遺言でも交渉遺言の取消し等ができるようになりました(改正民法典1142条3項)。

(イ)自筆遺言(改正民法典1134項)

自筆遺言は、遺言者が自書し、署名し、年月日を明記することにより作成します。

(ウ)代筆遺言(改正民法典1135項)

代筆遺言は、2人以上の証人が立ち会い、そのうち1人が代筆し、かつ、遺言者及び代筆者、その他の人が署名し、年月日を明記しなければなりません。

(エ)印刷遺言(改正民法典1135項)

印刷遺言は、今回の改正民法典で新に認められた方式の遺言で、プリンター等で印刷された遺言です。遺言を印刷するにあたっては、2人以上の証人が立ち会わなければならず、遺言者及び証人は、遺言の各ページに署名し、年月日を明記しなければなりません。

日本でも、相続法の改正により、平成31年1月13日から自筆証書遺言においても、財産目録については、各ページに署名押印すれば、自書でなくてもよいことになりましたが(民法968条2項)、自書でなくてもよい範囲は中国と比較すると限定的です。

(オ)録音・録画遺言(改正民法典1137項)

遺言者が、録音・録画形式で口述遺言を行う方法であり、2人以上の証人の立会が必要です。録音遺言は、従前から認められていましたが、今回の改正民法典で新たに録画遺言が認められました。

(カ)口頭遺言(改正民法典1138条)

口頭遺言は、危急時において、口頭でできる遺言です。口頭遺言は、2人以上の 証人の立会が必要です。危急の状況が過ぎた後に、遺言者が他の方式により遺言をすることができる場合には、その口頭遺言は無効となりますので、口頭遺言の内容の遺言の効力を保持しようとする場合には、他の方式による同内容の遺言をする必要があります。

(3)証人(改正民法典1140条)

公証遺言と自筆遺言以外の方法では、すべて2人以上の証人の立会が必要です。証人は、完全行為能力者で、現実に証人となり得る能力を有する者である必要があり、かつ、相続人、受遺者又はそれらの利害関係者(債権者、債務者、共同経営組合員等)以外の者である必要があります。

(4)遺言の無効

遺言は、労働能力を欠き、かつ、生活源泉のない相続人に対し必要な相続分を保留しなければなりません(改正民法典1141条)。保留すべき相続分とは、当該相続人の生活保障に必要な遺産であり、遺産総額が少ない場合は遺産すべてを保留する必要すべきこともありえますが、遺産総額が多額の場合には、法定相続分よりも少額で足りる場合もありえます。

いずれにせよ、中国では、日本のような画一的に相続人の相続分を保障する遺留分の制度はありませんが、自活能力がない相続人については一定限度保護されております。また、日本では、遺留分を侵害する遺言も無効とはならず、遺留分を侵害された相続人による遺留分侵害額請求権の行使により、金銭賠償がなされ侵害が回復されることになりますが、中国では、自活能力がない相続人に対する遺産留保がない遺言は、その部分につき無効となります。

その他、完全行為能力者でない者が行った遺言、遺言者の真意に反する遺言(脅迫、詐欺によりなされた遺言や、偽造、変造された遺言)、遺言者の危急状況が過ぎた後にその他の方式で遺言が可能な場合の口頭遺言、被相続人に属さない財産を処分する内容の遺言等は、無効となります。

遺言が無効となった場合、その部分については法定相続により処理されます(改正民法典1154条4号)。

(5)遺言の取消し、変更

遺言者は、自らなした遺言を取り消し、又は変更することができます(改正民法典1142条1項)。また、遺言者の生前行為と遺言の意思表示が相反し、遺言による処分財産が相続開始前に消滅、部分消滅又は所有権が移転、部分移転している場合は、遺言は取り消されたか又は部分的に取り消されたものとみなされます(改正民法典1142条2項)。

遺言の取消し、変更は、単なる意思表示では足りず、遺言方式による表明が必要です。元の遺言と同じ方式による必要はありません。したがって、自筆遺言、代筆遺言、印刷遺言、録音・録画遺言、口頭遺言の間で遺言内容に抵触がある場合、それらの遺言中の最も新しい遺言の内容が優先します(改正民法典1142条3項)。前記のとおり、改正民法典により、公証遺言についても後でなされた公証遺言以外の自筆遺言等と公証遺言の内容が抵触する場合、後でなされた自筆遺言等の内容が優先します。

日本では、遺言の種類による効力に差がなく、複数の遺言の内容が抵触する場合は、最後の遺言の内容が優先します(日本民法1023条)。中国においても改正民法典により、同様の取扱いとなりました。

(6)遺贈

(ア)遺贈及びその種類

遺贈とは、遺言方式により、自己の個人財産を法定相続人以外の者に贈与するもので、遺贈者の死亡により法的効力が生ずる遺贈者の単独行為です。

日本には、遺贈には、遺産の全部又は一定割合を対象とし、権利だけでなく義務も承継される包括遺贈と特定の財産を対象とする特定遺贈がありますが、中国では、特定遺贈のみです。

また、日本と同様に、単純遺贈の他、遺贈者が遺言において義務を付し、受遺者が、義務を履行して初めて遺贈を受けることができる負担付遺贈があります(改正民法典1144条)。

遺言相続は、法定相続人の中から遺言相続人を指定する必要がありますが、遺贈の受遺者は、逆に法定相続人以外の者である必要があり、国や集団に対する遺贈も可能です。日本の遺贈は相続人に対して可能ですが、中国では、相続人に対するものは遺言相続であり、遺贈とは相続人以外の者に対するものです。

なお、中国には、遺贈とは異なる遺贈扶養契約というものがあります。これは、被相続人が、自らの生前の扶養と死後の弔いを行うことの対価として、遺贈を受ける権利を他者に与える契約で、扶養者は、合意にしたがい、被相続人の生前の扶養及び死後の葬儀に係る義務を負い、被相続人から遺贈を受ける権利を有します(改正民法典1158条)。なお、遺贈扶養契約と遺言との間に齟齬がある場合は、遺贈扶養契約が優先します。

(イ)遺贈の放棄

遺贈は書面又は口頭で放棄することができ、受遺者は、遺贈を受けることを知った後60日内に、遺贈を受け、又は放棄する旨の表示をしなければなりません。期日が到来しても表示していない場合には、遺贈を受けることを放棄したものとみなされます(改正民法典1124条2項)。相続の放棄の場合は、遺産処理前に放棄の意思表示をしないと、承認とみなされるのと異なります(改正民法典1124条1項)。受遺者や遺言相続人が遺贈や遺言相続を放棄した場合、遺贈や遺言相続の対象財産は、法定相続手続により法定相続人が相続します(改正民法典1154条1号)。

日本では、原則として、受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができるとされ(日本民法986条1項)、遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。)その他の利害関係人が、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をした場合、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなされる(日本民法987条)のとは対照的です。

遺産の処理

10.遺産の処理

(1)遺産管理人

相続開始後、被相続人の死亡を知った相続人は、遅滞なく他の相続人及び遺言執行者に通知する必要があります。相続人のうちに被相続人の死亡を知る者がおらず、又は被相続人の死亡を知りながら通知することができない場合には、被相続人の生前の所在単位又は住所地の住民委員会若しくは村民委員会が通知に責任を負います(改正民法典1150条)。

また、相続が開始すると、遺産管理人を選任する必要があります。遺言者は、遺言   で、遺言執行者を指定することができますが(改正民法典1133条1項。なお、遺言執行者は、法定相続人でもそれ以外の者でもよいし、1人又は複数人でもよいです。)、遺言執行者がいる場合は、相続開始後、遺言執行者は遺産管理人となります。遺言がなかった場合や遺言中で遺言執行者が指定されておらず遺言執行者がない場合には、相続人は、遅滞なく遺産管理人を選出しなければなりません。相続人が選出しないときは、相続人が共同して遺産管理人を担当します。相続人がいないとき、又は相続人がいずれも相続を放棄したときは、被相続人の生前の住所地の民政部門又は村民委員会が遺産管理人を担当します(改正民法典1145条)。相続人間で、遺産管理人の選任に争いが生じたときは、利害関係人は裁判所に遺産管理人の指定を求めることができます(改正民法典1146条)

 遺産管理人の職責は、①遺産を整理し、かつ、遺産目録を作成すること、②相続人に対し遺産の状況を報告すること、③必要な措置を講じて遺産の毀損又は滅失を防止すること、④被相続人の債権債務を処理すること、⑤遺言に従い、又は法律の規定により遺産を分割すること、⑥遺産管理に関係するその他の必要な行為を実施すること、です(改正民法典1147条)。

遺産管理人は、法律の規定により、又は約定に従い報酬を取得することができますが(改正民法典1149条)、法により職責を履行しなければならず、故意又は重大な過失により相続人、受遺者又は債権者に損害をもたらした場合には、民事責任を負わなければなりません(改正民法典1148条)。

(2)遺産分割

被相続人が遺言中で遺産分割方法を指定した場合は、その内容が合法である限り、それに従って遺産分割する必要があります。遺言で遺産分割方法が指定されておらず、第三者にも分割方法の指定の委託がなされていない場合等は、相続人間の協議により遺産分割する必要があります。協議が成立しない場合は、裁判所に遺産分割を請求できます。

遺産分割は、生産及び生活の必要に適わなければならず、遺産の効用を損なってはなりません。また、分割に適しない遺産については、換価、適切な補償又は共有等の方法を採用して処理することができます(改正民法典1156条)。

遺産を分割するにあたっては、被相続人が法により納付するべき税金及び債務を弁済しなければなりませんが、労働能力を欠き、かつ、生活上の源泉がない相続人のため必要な遺産を保留する必要があり、それは被相続人の未払税金や未払債務の支払に優先すべきものとされております(改正民法典1159条)。

また、遺産分割の際には、胎児の相続分を保留する必要があります。しかし、胎児が分娩時に死体であった場合には、保留された相続分は、法定相続に従い取り扱われます(改正民法典1155条)。

法定相続があり、かつ、遺言相続又は遺贈もある場合には、法定相続人が被相続人の法により納付すべき税金及び債務を弁済します。法定相続遺産の実際価値を超える部分については、遺言相続人及び受遺者が、取得した遺産により比率に従い弁済します(改正民法典1163条)。

例えば、被相続人Aと相続人B、C、Dが存在し、相続開始時Aの遺産が100万元でEに対する負債が60万元あり、Aは、遺言で相続人Bに40万元を相続させましたが、残りの60万元については何も定めていなかったとします。その場合、遺言に規定のない60万元は、B、C、Dが20万元ずつ相続するため、Bは合計60万元相続します。遺産分割後、債権者Eが遺産分割があったことを知り、相続人に対して60万元の債権の弁済を請求した場合、B、C、Dが法定相続により相続した60万元により弁済すべきことになります。

また、例えば、被相続人Aと相続人B、Cが存在し、相続開始時Aの遺産が500万元でEに対する負債が400万元あり、Aは、遺言で相続人Bに50万元を相続させ、150万元を友人のDに遺贈しましたが、残りの300万元については何も定めていなかったとします。その場合、遺言に規定のない300万元は、B、Cが150万元ずつ相続するため、Bは合計200万元相続します。遺産分割後、債権者Eが遺産分割があったことを知り、B、C及びDに対して400万元の債権の弁済を請求した場合、まずB、Cが法定相続により相続した300万元により弁済すべきことになります。残りの100万元については、遺言により50万元を取得したBと150万元を取得したDが1対3の割合で弁済すべきことになり、Bが25万元(法定相続分による弁済額150万元と合計で175万元負担することになります。)、Dが75万元をEに対して弁済すべきことになります。

なお、相続する者がなく、かつ、遺贈を受ける者もない遺産については、国家所有に帰属し、公益事業に用いられます。死者が生前に集体所有制組織の成員であった場合には、所在していた集体所有制組織の所有に帰属します(改正民法典1160条)。

渉外相続

11.渉外相続(準拠法)

(1)相続の準拠法

法定相続には、被相続人の死亡時における経常的住所地の法律を適用します。ただし、不動産の法定相続には、不動産所在地の法律を適用します(渉外民事関係法律適用法31条)。相続の準拠法の問題は、実体法である改正民法典ではなく、どの国、地域等の法を適用するのかを定める抵触法である渉外民事関係法律適用法で規定されております(なお、従前は実体法である相続法や民法通則に相続の準拠法に関する規定がありましたが改正民法典の施行により既に廃止されております。)。

したがって、例えば、日本に住む中国人が被相続人の場合、被相続人が有する日本の動産及び不動産の準拠法はいずれも日本法ですが、中国に有する動産及び不動産については、動産については日本法が、不動産については、中国法が準拠法となります。これに対して、中国に住む日本人が被相続人の場合、被相続人が有する中国の動産及び不動産の準拠法はいずれも中国法ですが、日本に有する動産及び不動産については、動産については中国法が、不動産については、日本法が準拠法となります。

なお、中国では、「渉外民事関係に適用する外国の法律には、当該国の法律適用法を含まない。」と規定されており(渉外民事関係法律適用法31条)、反致はありません。反致とは、一般的には、法廷地A国の抵触法によればB国法が準拠法になり、B国の抵触法によればA国法が準拠法になる場合に、法廷地A国において、結局法廷地A国法を準拠法とすることを言い、抵触法上の概念です。渉外民事関係法律適用法31条の「当該国の法律適用法」は、上記の例でいえばB国の抵触法を意味しますので、「渉外民事関係に適用する外国の法律には、当該国の法律適用法を含まない」ということの趣旨は、結局仮にB国の抵触法に反致を認める規定があっても、B国の抵触法は適用されない結果反致は認められず、B国法を準拠法とする趣旨だということになるわけです。

日本では、法の適用に関する通則法第41条本文において、「当事者の本国法によるべき場合において、その国の法に従えば日本法によるべきときは、日本法による。」と規定され、但書での離婚等の若干の例外を除き反致が採用されています。したがって、日本法を前提に考えると、法の適用に関する通則法第36条で、相続の準拠法は被相続人の本国法だとされていますが、反致により、日本に住む中国人の被相続人が日本に有する動産及び不動産には、被相続人の本国法である中国法ではなく、動産には被相続人の経常的住所地法である日本法が、不動産にも所在地法である日本法が適用されます。中国法でも反致が認められていれば、日本に住む中国人の被相続人が日本に有する動産も不動産も法の適用に関する通則法第41条により反致され、被相続人の本国法である中国法が準拠法となるはずですが、中国では反致が認められていないため、そのような結果とはならないのです。

(2)遺言の準拠法

遺言の方式については、渉外民事関係法律適用法32条において「遺言方式が遺言者の遺言時又は死亡時における経常的住所地の法律、国籍国の法律又は遺言行為地の法律に適合する場合には、遺言は、いずれも成立するものとする。」と規定されております。

日本においては、日本が加盟する遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約に基づいて制定された遺言の方式に関する法律の準拠法に関する法律2条により、遺言の方式は、①行為地法、②遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法、③遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法、④遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法、又は、⑤不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法にいずれかに適合する場合は有効とされております。

中国と大きく異なる点は、不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法に適合する場合も有効な方式と認められる点です。遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約は、香港を除く中国には適用されないため、遺言の方式に関する準拠法の規定内容が日本と若干異なっておりますが、香港には、遺言の方式に関して、日本の遺言の方式に関する法律の準拠法に関する法律2条と同内容の規定があります。

また、渉外民事関係法律適用法には、「遺言の効力には、遺言者の遺言時又は死亡時における経常的住所地の法律又は国籍国の法律を適用する。」(渉外民事関係法律適用法33条)、「遺産管理等の事項には、遺産所在地の法律を適用する。」(渉外民事関係法律適用法34条)、「相続する者がない遺産の帰属には、被相続人の死亡時における遺産所在地の法律を適用する。」(渉外民事関係法律適用法35条)との規定あります。

日本では、遺言に関しては、前記の他、法の適用に関する通則法37条があり、その1項で「遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。」、2項では「遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。」と規定されております。