香港
目次
香港における相続手続
香港は、イギリス法の流れをくみ、相続に関しては、管理清算主義及び相続分割主義が採用されています。管理清算主義の下では、相続財産が少額である等の場合以外は、相続手続に裁判所が関与するため、相続が発生した場合、日本のように相続人だけで、預金からの引き出し等ができません。それでは、実際どのように被相続人名義の預金等の回収を図ればよいのでしょうか。
1香港の相続手続
簡単にまとめると、次のとおりです。
① 遺言で、遺言執行人(Executor)の指名がある場合
→ 遺言執行人(Executor)が、遺言に従って処理する。
② 遺言がない場合、遺言があっても遺言執行人の指名がない場合、遺言で指定された者が遺言執行人になれなかったり、なることを拒否した場合
→ 遺産管理人(Administrator)が裁判所により選任され、相続人や相続分に関する法律に基づいて処理する。
すなわち、香港で相続が発生した場合、信託を設定している場合や遺産額が少額である場合等の例外的な場合以外は、原則的に、被相続人の遺産(Estate)は、遺言(Will)がある場合には、その遺言に従って、また、遺言が無い場合は、法律により定められた者に承継されます。ただ、香港では、遺産の承継、すなわち遺産を相続人の名義に移すためは、遺言の有無に拘わらず必ずプロベートという裁判所の手続が必要です。
プロベートでは、遺言により遺言執行人(Executor)が指名されている場合には、遺言執行人が、自らが遺言執行人であることを裁判所に承認してもらうために、プロベートの付与(Grant of Probate)と呼ばれる命令を受ける必要があります。遺言執行人は、プロベートの付与(Grant of Probate)を受けた後、遺言に従って被相続人の遺産を管理・清算することができます。遺言がない場合には、遺産管理人(Administrator)となろうとするものが裁判所に申し立てることにより、遺産管理人(Administrator)に被相続人の遺産を管理する権限を付与する旨の遺産管理状(Letters of Administration)という裁判所の命令が発せられます。遺産管理人は、この遺産管理状(Letters of Administration)を受けた後、法律の定めに従って被相続人の遺産を管理・清算することができます。
すなわち、遺言の有無に拘わらず、裁判所による遺言執行人、または、遺産管理人(Administrator)の選任が適切になされるまでは、相続人であっても被相続人の遺産を合法的に取り扱うことができません。
以上のようにして選任された遺産執行人又は遺産管理人が被相続人の遺産の処分、分配、名義書換等の手続を行います。
2遺言がある場合の手続(Testate)
遺言(Will)がある場合、その遺言で遺言執行人に指名された者が、裁判所に対して、指定の申立書(Application)を提出して、自らが遺言執行人であることを裁判所に承認してもらうために、プロベートの付与(Grant of Probate)と呼ばれる命令を受けることにより、被相続人の遺産を管理、清算することの許可を受けます。
裁判所の許可は、シンプルで標準的なケースでも、少なくとも半年以上かかり、複雑な内容になると、数年かかる場合もあるようです。
3遺言がない場合の手続(Intestate)
遺言(Will)がない場合、法律で定められた優先順序によって決められる申立人が、遺産管理人(Administrator)候補者となって、裁判所に対して、被相続人の遺産を管理する権限を付与する旨の遺産管理状(Letters of Administration)と呼ばれる命令を受けることにより、遺産管理人(Administrator)の選任、及び、当該遺産管理人が被相続人の遺産を管理、清算することの許可(Letters of Administration)を受けます。
また、遺言がない場合の法定相続人とそれぞれの相続分は、以下のとおりとなっております。配偶者は常に相続人で、子が第1順位、親が第2順位、兄弟が第3順位となっている点は日本と同じです。具体的には次のようになります。
① 配偶者がいるが、子、親及び兄弟のいずれもいない場合
配偶者がすべての遺産を相続します。
② 配偶者と子がいる場合
(i) 配偶者:非土地資産(衣類等で、現金は含まれません。)とHK$500,000を相続する他、それらを控除した残りの半分を相続します。
(ii) 子:(i)の配分後に残った残りの半分を相続します。
③ 配偶者と親又は兄弟のみがいる場合
(i) 配偶者:非土地資産とHK$1,000,000を相続する他、それらを控除した残りの半分を相続します。
(ii) (i)の配分後に残った残りの半分は、親がいる場合は、親が全額相続します。親がいないときは、兄弟が全額相続します。
④ 配偶者がいない場合
子、 親、兄弟、祖父母、おじ・おば等の順位で相続します。
⑤ 法定相続人が誰もいない場合は、遺産は香港政府に帰属します。
4簡易なプロベート手続
以上のように、相続が発生したときは、原則として、プロベート手続が必要ですが、被相続人の遺産の総額が、HK$150,000以下で、遺産が、現金、銀行預金等の場合には、通常のプロベート手続を経なくても、公的遺産管理人(Official Administrator)が遺産の管理を引き受ける公的遺産管理人制度があります。しかし、遺産が、不動産、株式、訴訟が必要な債権的財産の場合には、公的遺産管理人制度を利用できません。また、外国人(香港人以外)の遺産の相続の場合にもこの手続は使えません。
公的遺産管理人への手数料は、遺産のうち、HK$1,000までは5%、HK$1,000からHK$5,000までは2.5%、HK$5,000を超える部分については1%とされています(2012年1月31日時点)。
香港の相続税
香港には、過去、相続税にあたる遺産税がありましたが、2006年2月11日以降の相続に関しては遺産税はありません。また贈与税もありません。