海外で暮らす家族に相続が発生した方
目次
(1)日本人である被相続人及び相続人が、日本国籍のまま海外に移住し、被相続人が海外で亡くなったケース
遺産分割
このケースでは、相続人は、住んでいる海外で相続手続を行うことになり、その場合、現地国の法律にしたがって処理がなされるものと考えられます。ただ、日本に資産がある場合には、日本にある資産の名義を相続人に変更する必要があり、その場合、現地国の法律に従ってなされた処理にしたがって日本の資産の名義変更ができるのかが問題となり、日本では、日本の法律に従った処理によらなければ、名義変更ができない可能性があります。
そうすると、日本の資産に関しては、日本法が適用され、法の適用に関する通則法36条では、相続に適用される法律は、被相続人の本国法であるとされているため、この場合、一族が海外に長年住んでいたとしても、被相続人の本国法である日本法の適用を前提とした処理をしなければならないと考えられます。
相続税
相続税は、相続開始時(被相続人が亡くなった時点)に相続人が日本に住んでいる場合にしかかかりませんが、例外として、相続人が日本人である場合には、相続開始前直近5年の間に、被相続人又は相続人のいずれかが日本に住所を有していた場合には、相続開始時に相続人が日本に住所を有していなくても、相続人は、被相続人が有する全世界の資産について相続税を支払う必要があります。このような相続人は、非居住無制限納税義務者といいます。
これに対して、相続開始の時点から遡って5年の間、被相続人も相続人も日本に住所を有していたことがない場合や相続人が日本国籍を有していない場合は、相続開始の時点で相続人の住所が日本になければ、被相続人の日本国内にある財産のみが相続税の対象となります。このような相続人は、制限納税義務者といいます。
したがって、このケースでは、相続開始時点から遡って5年の間に被相続人も相続人も日本に住んだことがないのであれば、相続人は、制限納税義務者として、日本の資産についてのみ相続税を支払えばよいのですが、その間に、被相続人か相続人のどちらから日本に住んだことがあるのであれば、日本の資産に限らず、全世界の財産について日本の相続税を納める必要があります。
なお、現地国でも相続税が発生する場合に、二重課税となりますが、日本の相続税については、制限納税義務者には、外国税額控除は認められておりません。
(2)被相続人及び相続人が、外国籍を取得して海外に移住し、被相続人が海外で亡くなったケース
遺産分割
このケースでは、ケース3(1)と同様に、相続人は、住んでいる海外で相続手続を行うことになり、その場合、現地国の法律にしたがって処理がなされるものと考えられます。
ただ、日本に資産がある場合には、日本にある資産の名義を相続人に変更する必要があり、その場合、現地国の法律に従ってなされた処理にしたがって日本の資産の名義変更ができるのかが問題となり、日本では、日本の法律に従った処理によらなければ、名義変更ができない可能性があります。
そうすると、日本の資産に関しては、日本法が適用され、法の適用に関する通則法36条により処理されることになります。ここまでは、ケース3(1)と同様です。しかし、同規定では、相続に適用される法律は、被相続人の本国法であるとされているため、ケース3(1)と異なり、適用される法律は、日本法ではなく、現地国の法律なので、原則的には、それにしたがってなされた処理により、名義変更が認められると考えられます。
相続税
ケース2(1)で述べたとおり、相続税は、相続開始時(被相続人が亡くなった時点)に相続人が日本に住んでいる場合にしかかかりませんが、例外として、相続人が日本人である場合には、相続開始前直近5年の間に、被相続人又は相続人のいずれかが日本に住所を有していた場合には、相続開始時に相続人が日本に住所を有していなくても、相続人は、被相続人が有する全世界の資産について相続税を支払う必要があります。このような相続人は、非居住無制限納税義務者といいます。
これに対して、相続開始の時点から遡って5年の間、被相続人も相続人も日本に住所を有していたことがない場合や相続人が日本国籍を有していない場合は、相続開始の時点で相続人の住所が日本になければ、被相続人の日本国内にある財産のみが相続税の対象となります。このような相続人は、制限納税義務者といいます。
しかし、このケースでは、相続人は外国籍を取得し、日本人ではなくなっているため、相続人は、制限納税義務者として、日本にある資産についてのみ相続税を支払えばよいことになります。
なお、現地国でも相続税が発生する場合に、二重課税となりますが、日本の相続税については、制限納税義務者には、外国税額控除は認められておりません。